2025年5月1日(木)
【医科学委員会】アンチ・ドーピングコラム第2回
医科学委員会
3月9日にU20男子日本代表へ,4月12日に女子日本代表へ医科学委員会アンチ・ドーピング部会による講習会が実施されました。アンチ・ドーピングについての講習会を過去に受講したという選手の数も増えており,アンチ・ドーピングに対する選手の意識も高まっていると強く感じられる講習会でした。
さて,2025年に入り,ドーピングに関する報道が何度かありましたが,皆さんはご存知でしょうか。大きなものでは,男子テニス世界ランキング1位の選手に対して出場3カ月の処分が科されたことや,五輪銀メダリストの陸上選手に対してドーピング違反により4年間の出場停止処分が科されたことなどがありました。
テニスの件については,2024年3月の検査で違反物質が検出されたのち,不正監視機関の国際テニス・インテグリティ・エージェンシー(ITIA)から「本人に過失や怠慢がなかった」とされたものの,10月に世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が不服をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に申し立て,その後2025年2月にWADAと本人側との間で合意が成立して2月から3か月間の出場停止処分が科されたものです。陸上の件については,2023年6月と2023年8月~9月にかけて採取された血液サンプルから異常が検出されたことに関して,アスレチックス・インテグリティ・ユニット(AIU)が2024年11月に暫定的資格停止処分を科し,本人が不服を申し立てたものの認められず,2025年2月14日に処分が発表されたものです。その後,2025年3月28日にCASに本人から不服申し立てが行われたと報道されています。
どちらの件についても,本人は意図的な違反を認めておりません。それも当然のことで,過去にはドーピング違反が確定したことにより世界記録が抹消されてしまった選手もいましたし,競技引退を余儀なくされた選手もいました。違反を認める選手もいますが,司法取引で減刑を理由に認める場合や,他者からの決定的な証拠があったことなどが理由であることが多いようです。つまり,実際に違反を行っていたかどうか自体は問題ではなく,違反を行っていたと考えられる結果,例えば検体から違反物質の代謝物が検出されることや,違反行為によって生じる生体反応が検出されると違反が認定されているということです。
違反を行っているつもりはないのにドーピング検査に引っかかってしまうことを「うっかりドーピング」といいます。知識が無いことにより,このような事態になることは避けなければなりません。代表選手に対しては直接講習会を実施しておりますが,代表活動への参加の有無に関わらず,ラクロスに携わる皆さんには是非とも知っておいていただきたいことでもあります。私たちはアンチ・ドーピングを徹底するためにも「口に入れるもの,肌に触れるもの」に対して意識を払う必要がありますので,今回,「禁止物質が入っているため,避けなければならないもの」について,少しだけ紹介させていただきます。
総合感冒薬(いわゆる風邪薬)の多くには,気管支を広げて呼吸を楽にする作用を持つ「エフェドリン」や「メチルエフェドリン」が配合されています。咳などで呼吸が辛い時には大切な作用ですよね。しかし,薬物によって呼吸が楽になることは,競技における優位性を導くことに繋がりますので,これらの物質は尿中濃度が10 μg/mLとなる場合は禁止されています。
医薬品には成分表示が義務付けられていますので,成分がはっきりとわかります。体調が悪くなった時に,風邪薬の成分表を見ることなどは,余裕がないのでできません。元気な時に,ご自宅にある風邪薬や薬局の風邪薬の成分を確認してみてください。そういった小さな行動の積み重ねは,きっと皆さんの成長の役に立つと思います。
Text by 大倉崇