試合結果:1999年6月20日(日)/東京大会
男子:Wesley College vs U-19日本代表チーム
ゲームレポート
今回の試合は日本にとって初めての海外チームとの試合であり、同時に7月2日から始まる19歳以下世界大会までに行える最後の国際試合であった。その意味でもコーチ・選手のみならず日本ラクロスチームを取り巻く全ての人々にとって、大変に意味のある試合であった。
対するウィスレーカレッジは前回のイラコイチーム代表でもあったスコット・バーナム(#11)を擁し、技術的にも戦術的にも今回の世界大会で目標とするイロコイ、イングランドを十分に想定できるチームでもある。1Q、試合はWSLY大の要でもある、#11スコット・バーナムと#24マイケル・ビアジのゲームメークで始まった。ゆっくりとしたボールまわしから日本チームのディフェンスフォーメーションを観察し、ゴール左上のエリアにて#24のマイケル・ビアジのロールダッジからの鋭いシュートが放たれる。ゴール左隅下にボールが付き刺さり一点目が刻まれる。その後も#11スコット・バーナムと#24マイケル・ビアジのフェイクを多用した優れたスティックワークに日本チームは翻弄される。しかし、徐々に日本チームもペースを掴み始め、#19花房がクリアーからの1対1からゴール右上に得点。
追撃開始。この日U-19の1点目をあげた花房 周一(#19 写真右)
日本チームが目指す速いラクロスを象徴するかのような、グランドを縦に使った素晴らしいバウンドシュートであった。一方WSLY大はボールキャリアーを完全にアイソレーションさせ、対角線上にクリースを固める戦術を徹底させた1ON1中心のプレーが定着してきた。また、両チームともグランドボールの寄りが速く、スクープしたチームがそのままチャンスメイクをする展開となった。特にWSLY大#14トレバー・ホルブロックの寄りの良さが目立った。日本も得意の足を使ったプレーが相手DFを翻弄し、#27久村のシュートなどでチャンスを作り出し、前半8分初めてのエキストラマンオフェンスを得る。2−3−1システムの中、獲物を狙うかのようなボール回しの後、#9キャプテン黒澤の目の覚めるミドルシュートが決まる。観客席がどっと沸く中、試合再開の笛。しかし、ここであせらないのがWSLY大であった。1−4−1システムを組み、ゴール正面から#24マイケル・ビアジの1ON1。ゴール裏からの#8ジェフリー・ブラックのカットインに絶妙のフィードそしてシュート。ゲームの流れを引き戻すかのような美しいゴールであった。その後も同じシステムでゴール右横からの#19ジョン・マローニによる1ON1。今度はカットインではなく、ボールマンに対する効果的なピッキングを活かして、サイドワインダーシュート。得点は2−3と日本チームの1点ビハインドで1Qを終える。日本チームにとって最初のクオーターは試合に慣れる事に専念するために積極的に今まで練習してきた前へボールを繋げる姿勢を目指した様であった。ゴール成功率も日本は5本中2本成功、WSLY大は13本中3本とまずまずの立ちあがりであった。
電光石火の如くグランドを駆けめぐった岩本 祐介(#12)
2Q、日本らしさが顕著に見られたのがこのクオーターである。フェイスオフ後の混戦から電光石火の如く抜け出したのが日本チーム#12岩本であった。スクープ後一直線にゴールに向かい、身体全身を使ってのランニングシュートが鋭くゴールに付き刺さり、同点。開始早々の同点弾は試合運び上大変に重要である。2Qはその後もグランドボールがゲームを決める重要な要素となる。両チームとも激しさを増すなか、WSLY大#11スコット・バーナムがペースメークを強く意識し、次第に彼を中心に戦術的に試合が運ばれることとなる。一方日本チームはクリースラインを意識した攻撃が見られ、#12岩本の1ON1を起点とした直線的なオフェンスが展開された。
均衡を破ったのがWSLY大#3ステファン・ビシェによる日本のお株を奪うかのような直線的な切り込みからの得点。この得点を契機に#22マット・リーサー、同じく#3ステファン・ビシェ、#8ジェフリー・ブラックのゴール裏からの1ON1による得点が続き、一気に試合はWSLY大の大差となる。結局2Qは3−7のスコアーでの折り返しとなった。
この日3ゴールを叩き出した黒澤 仁晴(#9)。
3Qはまさに日本チームが2Qにやってのけた試合開始直後のゴールをWSLY大が奪うという結果で始まった。#22マット・リーサーのトリッキーなプレーが一瞬日本を翻弄したが、日本チームの足で付くディフェンスは日本チームに常に安定した守りもたらした。そんな日本チームに対するWSLY大の対策がクリースでの徹底したダブルピックであった。再びボールキャリアーをアイソレーションさせ、クリースの中から飛び出す2人のプレーヤーが日本チームを悩ませた。カットインからのシュートが続き、結果的に#19ジョン・マローニに得点許すこととなる。
前回のイラコイチーム代表でもあったスコット・バーナム(#11)。
アデレード大会にはイラコイチームのヘッドコーチとして参戦する。しかし、ここで日本チームの少ないチャンスを活かした選手がいた。#19花房である。わずかなクリースの隙間に飛び込んだ花房に#22伊藤からの絶妙のフィード。花房は狙い澄ましたかのようにゴール右隅にシュート。日本チームの練習の積み重ねと選手のセンスのよさが光った場面であった。日本チームの大黒柱#12岩本の良さが会場全体伝わったのもこの直後であった。グランドボールの混戦からまたもや抜け出した岩本はそのまま相手陣内に走り込み、突進してくる相手の動きを観察した後、これぞテキスト通りともいえるロールダッチを決め、そのままシュート。素晴らしいシュートに相手チームも肩を落とす。一気にたたみかける日本は、その後手に入れたエキストラマンオフェンスで#9キャプテン黒澤がミドルシュート。本日2点目のここ一番の得点であった。しかし、その後が続かなかったのが悔やまれる。WSLY大ヘッドコーチ兼プレーヤーの#11スコット・バーナムの冷静なゲームメークが試合の流れを一気に引き戻した。個人技からの#21ジョナサン・シムカィスと#11スコット・バーナムの得点で点差を5点に引きはなした。日本チームはここで気が抜けたのか、リスタートのチェックアップミスからディフェンスの裏にボールを通され、#9ジョシュ・ワイアットが落ち着いて決め、このクオーター時点で6−12と6点差となってしまう。
4Q、立ちあがりが強いのが日本チームの特徴であった。日本チーム#5大吉から#9黒澤へのゴール前での連係が決まり、点差を縮める。さすがに4Qにもなると各選手の動きにも疲れが見られてきたが、この苦しい状況で飛び出したのが、WSLY大#22マット・リーサーと#24マイケル・ビアジの2選手であった。取られた得点をすぐさま取り返し、点差を再び広げる立て役者となった。日本チームにとって#9黒澤はもはやなくてはならない存在かもしれない。日本チームのミスからイリーガルプロシージャーを取られ、一時流れがWSLY大に傾いたが、再び#5大吉とのホットラインを活かし、値千金の得点。その流れは#8ディフェンス平田のクリアーからのランニングシュートにつながったといえる。本人も飛びあがって喜ぶほど、美しいシュートであった。
しかし、日本チームの攻撃もここまでであった。アメリカ東部地区リーグで優勝した実績を持つWSLY大がここにきて底力をみせた。#3ステファン・ピシェと#8ジェフリー・ブラックのゴール裏、ゴール横からのプレ−が冴えわたり、連続して2点が追加される。日本チームもファーストブレイクをねらい#10橋本がゴールに切れ込むが、WSLY大の執念のディフェンスに阻まれ、ここでゲームオーバー。ゲーム後すぐに各チームは握手で抱き会い、グランドには国際親善試合の様相でいっぱいとなった。最終的にMVPはWSLY大の#24マイケル・ビエジ選手が、日本チームからはVPに#12岩本選手が選ばれた。試合後のインタビューでマイケル選手が日本選手のフィジカル(筋力)面でのトレ−ニングを必要視していたのが印象的であったが、全体的には国際試合が初めての日本にとっては大変に成果のあった試合であったといえる。
本日のゲームは「速く早いラクロス」をコーチ・選手一丸になって表現し、観客を魅了させた記念すべき第一歩であり、7月から始まる19歳以下世界大会に向けた貴重な体験であったといえる。
ゲーム終了直後。お互いの健闘を讃えあう。
最後に、今回の大会はラクロスに関わる全ての人々が日本チームを応援したくなるゲームであり、そして同時に、参加した全ての人々が「LACROSSE MAKES FRIENDS」を実感する機会であったと、心から付け加えたい。
(Report by Kenichi Watanabe)
(Photo by Takafumi Kojoh)